この文章は、2004年12月22日、アサヒビール本部ビル3階・大会議室で行われた「METAL MEETING Vol.2」で参加者の皆様にお渡しした当日パンフレットに寄せた挨拶文です。
 
本日は「METAL-MEETING Vol.2」に御来場頂き有り難うございます。

「026-METAL」は、2004年9月17日から10月17日までの1ヶ月間、滋賀県栗東市に滞在し作品創 作を行うというプロジェクトでした。
共同主催者である、栗東芸術文化会館さきら(財団法人栗東市文化体育振興事業団)が募集した公募スタッフ を含め、 日本全国11都府県から約30名のスタッフが集まり、総重量約15トンの金属装置をさきらの敷地内の野外 会場に設営しての公演でした。
同時に、使用した金属素材である、鉄板、鉄パイプ、チェーン、ドラム缶などを叩き・擦って音楽を創造して 行くワークショップも行い、本番ではその演奏も公募スタッフを中心に奏者となり作品内に組み込まれました。
上演は当初、10月8日〜10日の三日間が予定されていました。
しかし、一部近隣住民から来た音量に関する苦情に端を発し問題は起こりました。
さきら側は、我々との打開の方法を探る協議中に陰では別スタッフが電話、メール、看板立て、チラシの配付 というあらゆる方法で中止を発表するという騙し討ちを行い、また中止の理由をたまたま来ていた台風のせい にするという捏造・事実隠蔽まで行いました。
このさきら側の暴挙により、8日はリハーサルという名目の無料公開、9日は中止に追い込まれました。
勿論、さきら側は私達の公演で出す音量を了解した上で、私達に作品制作を依頼してきていたのにも関わらず です。

今回の問題は、実際に近隣住民から音量に対する苦情が来ている事もあり、 「丹野賢一/NUMBERING MACHINEvs近隣住民」という構図に受け取られがちではあります。
しかし、私達は問題の核心は違う所にあると思っています。
さきらの周囲には高層マンションが何棟も建ち並び、その世帯数は数百戸はあります。
その数多くの住民の考え方やアートへの関心・興味が千差万別なのは当然です。
苦情も事実ならば、私達の公演を楽しみにしてくれていた近隣の方々が多くいらっしゃった事、そして毎日の 作業の中で良きコミニュケーションを取っていたのも事実です。
実際、マンションの自治会の方と話をさせて頂いた際の印象では、自治会の方々は私達アートを創る側やアー トの観客に対し、非常に理解を示してくれていました。
さきらが問題がある事を隠蔽せずに、且つ共に解決の方法を探るような姿勢であったならば、このような不幸 な出来事は起こらなかったとも思えます。
私達アートを創る側・アートの観客に対し、無理解で一番関心を持たない、それが故に人の営為を権力で平気 で踏みにじっているのは、実は主催者である公共ホールの人間だったとの印象を私は持っています。
現場で起きた一部のクレームによって、今までは一切話に参加していない、参加しようとしない上層部が強引 に介入し、強制をしてくる。彼らはアートになどは関心の無い官民から移動してきた職員です。問題など無い としたい、ある問題は隠蔽したい、だからたまたま来そうであった台風を利用してくる。
アートを創る人間、アートに関心を寄せ観る事を期待する人間の思いなど、全く理解はしません。
ですから、平気で人を踏みにじります。人の営為を殺そうとします。人を殺そうとします。その事に全く無自 覚です。
そして近隣住民へも誠意の無い対応を繰り返し、地域の関係を良からぬ方向へ持っていっているのも公共ホー ル自体との感を持ちました。
これは、さきらだけに止まる問題だとは思いません。
アートになど一切興味の無い、持とうともしない人間が、天下り的に公共ホールのトップとして収まっている ケースはいくらでもあると思います。

私達はこの問題を、作品としては非常に高い評価を各所から頂いた「026-METAL」の「再演計画」を通じな がら思考し、アートを取り巻く環境の改善への一助になればとと思っています。
「再演計画」を通しながらと決意したのは、
1、今回公演を観る事が出来なかった観客の皆様への責任の取り方としては、別の機会を作る事でしかありえ ない。
2、我々はアートに携わっているのであり、その立場での勝ち取り方を考えるべき。
3、さきらとのこの問題を、単にNUMBERING MACHINE対さきらの喧嘩と矮小化、風化させたくはない。
というものが挙げられます。

1に関しては、正直完璧な対処方法ではありません。否、完璧は残念ながらあり得ないです。
公演は一期一会のものですし、どんな形を取っても、観る事が出来なかった、帰されてしまった観客の方々へ の言い訳は出来ません。
再演したからといって、その時に来てくださるか、来る事が出来るかはわかりませんし、再演となれば内容も 当然いじり、異なるものとなる事となります。
しかし、これが精一杯の誠意を見せる方法だと考えています。

2に関しては、我々なりの勝ち取り方をずっと考えていました。
仮に追求をして、さきらが非を認めた・謝罪したとしても、それが何になるのか。
我々はアートに関わる人間です。ならば今回の事件を逆利用してでも、再演の機会による公演の発展や成長の 為の機会にすべきと考えます。
今回があるからこそ、「026-METAL」をツアーで上演出来るような進展に持っていこうと思っています。

3に関してです。上記にも記したように今回の問題は、さきらに止まらない公共ホール、更には出来上がって しまっている日本のシステムにあると考えています。
この問題の解決や進展は一朝一夕に達成されるものとは思いません。
だからこそ、再演計画を通じる事でこの問題を語る機会を継続的に作り、風化していかない粘り強い活動とし ていこうと考えています。

再演計画への道はそう簡単ではありません。
主に予算と場所の問題は大きいです。
公的な助成金の申請、各種企業への協賛金の協力要請は行っていきますし、主催してくださる所を探す、 METAL基金的なものを考え一口いくらかで賛助者を募る、入場者を増やし入場料収入を増やしていく、これ までの活動及び今回の公演を経た事で以降の公演のオファーが来た所など各地へのアプローチ等々考えられる 事はたくさんあります。
でもまだまだ実現への目処がたった訳ではありません。
しかし人の力やアイデアで思いもよらぬ方向へ動く可能性はあると思っています。関心を寄せてくださる方々 是非知恵を貸してください。

私はさきら潰しでもさきら教育にも終わらない実のある展開を望んでいます。
「026-METAL」という皆で創った作品と、その作品を創った皆との関係は本当に誇れるものだと思っていま す。

強行中止に至るまでの詳細な経緯は、「実録 026-METAL 日記後の四日間」とのタイトルで現在、丹野賢一 /NUMBERING MACHINEのHPに連載中です。
まだ完結はしておりませんが、現在までの文面をこの当日パンフレットにも掲載させて頂きます。
長文ですが、お読み頂ければ幸いです。

                                      2004年12月21日
                                          丹野賢一